甲辰/曇り

拙政園にて

■上海・蘇州旅行3日目
朝食を済ませてすぐホテルをチェックアウトし、駅へ向かう。今日は電車で50分程の蘇州へ移動し、明後日発の大連行き寝台切符を取って、レンタサイクルで観光する、と言う予定。しかし、今日の予定はことごとく予想外の展開となったのだった。
まず「たかが50分の移動」と思っていた蘇州行きの切符を取る為に駅で長蛇の列に並んだあげく、12:16までの切符は全て売り切れていると言う。せっかく朝早く来たのが全く無駄になったわけだが、身をもって「火車の切符を取るのは大変だ」と言う事を学ぶ事が出来たので良しとしよう。とりあえず2時間、駅前のミスドで電車を待つ事にした。
今回私達は有無を言わさず「硬座」と言う2等座席の切符を買わされたのだが、火車には1等の軟座、さらに席無しの無座があってそれぞれ値段も違う。寝台列車の場合はさすがに無座は無く、さらに1等寝台の軟臥と2等寝台の硬臥が加わる。駅構内へ入るにはまず、手荷物のX線検査を受けて、自分の乗る火車の待ち合い室で改札が始まるのを待つ。出発15分前にようやく改札が始まり、片っ端からぎゅうぎゅうと詰め込まれて行くのだ。いやもう、まさに「詰め込まれて行く」と言う形容がぴったりで、私達は一応指定席の切符を持っているのだが、通路はほとんど無座の客で埋め尽くされているので自分の席まで行くのに一苦労である。しかも客の多くが巨大な手荷物を持っており、映画で見る戦後の列車の様なのだ。最も都会と言える上海駅でこうなのだから、他の駅の状態も推して知るべし。
私の席は他の2人とちょっと離れていて、中国人老夫婦と孫をつれたおばあさんと同じ席だった。恐らく他人同士の2人のおばあさんが早口(私にとって)で話しているのをしばらく聞いてみたが全く聴き取れず、あきらめて本を読んで過ごす。そのうちちょっとしたきっかけ(と言うのは私が足下にあった電動ドリルをおばあさんの方へ蹴飛ばして「一体これは誰のなんや!」と言う話から始まった。結局これは、ちょっと離れた所に立っていた工人のものだった)から私も会話の仲間に入れてもらって、周囲の人に興味深く観察されながら(多分、私が話すへたくそな中国語がおもしろかったのだ)蘇州まで楽しい時間を過ごす事ができた。
蘇州についておばあさん達とわかれ、まずは大連行きの切符を取りに行く。また長い列に並んでようやく窓口に辿り着いたのだが、なんとすでに明後日の臥席は全て売り切れており座席しかないと言う。さすがに24時間座りっぱなしと言うのは無理である。最悪取れなかったら飛行機で帰るつもりでは居たのだが、まさか本当に取れないとは思わなかった。落胆しながら飛行機の切符の予約をする為に駅前の旅行会社へ行き、そこでふと思いついて火車の切符を取れなかった事、ここで取る事は出来ないかと聞いてみた。すると「簡単だ」と言うではないか。驚いてよく聞いてみると、蘇州からの切符は取れないが、始発の上海からだったら取れるので、手数料を払えば上海駅まで取りに行ってあげるよとのこと。地獄に仏とはまさにこのことだ、当然即決して押金を払い、一安心してホテルへ向かった。しかし予想外に遅くなったのでレンタサイクルで観光どころではない。これからどうしたものか、皆で思案する。
とりあえずミーちゃんは、以前の仕事で関係していた王さんと言う中国人が蘇州に居るので会いに行くと言う。じゃあ私達はどうしようか、と考えていた所、それなら皆一緒に王さんにちょっと会ってから、行きたい場所へ送ってもらおうと言う事に決まった。ホテルのロビーに降りて行くととむすっとした感じのおじさんが待っていた。この人が聞いていた王さんだなと思って挨拶をすると、実は王さんの運転手だと言う。王さんは忙しくなかなか時間が取れないので夕食だけ一緒に食べることになり、他はこの運転手の儲さんがずっと私達を世話してくれた。そう、ミーちゃんはちょっと会うだけ、と思っていたのだが結局王さん(儲さん)は蘇州に居る間中歓待してくれ、全然関係ない私達も一緒に図々しく歓待を受け続けてしまったのだった。
最初に会った時はむすっとした感じで怖いな、と思った儲さんだがものすごく良い人で2日間過ごして私は大好きになってしまった。現地の人に案内してもらうと言うのはやはり非常に効率良いのだ。しかも儲さんは蘇州で生まれ育った人なので、どこもかしこも詳しく解説してくれる。今日は時間もあまりないので、有名な庭園の拙政園と獅子林へ行く。どちらも世界遺産に登録されており、四大名園のひとつとされている。私は特に拙政園を気に入ったのだが、ここは豫園と同じく私人が造ったものとは思えない規模と贅沢さであった。つまり、今も昔も中国人の金持ちと言うのは桁違いに金持ちなのだ。蘇州も観光地とは言え、上海と違って人も少なくのんびりした感じだ。夜は蘇州の街をぐるりと囲む運河をめぐる遊覧船に乗る。1時間程かけてライトアップされたたくさんの橋をくぐりながら進んで行く。昼間乗るとまた違った赴きなのだろう。
予想外の展開続きだったが、王さん儲さんのおかげで楽しい一日となった。